成年後見制度における法定後見とは?後見・保佐・補助の違いについて
1.成年後見制度とは?
後見制度とは、認知症や精神の障がいなどで判断能力が低下したり、不十分になってしまった本人の代わりに、「後見人」と呼ばれる人が財産の管理や日常の手続きを行い、その人を保護するための制度のことです。
何らかの原因で本人の判断能力が低下してしまうと、日常生活に支障をきたすことがあります。
例えば、親族の知らないうちに、本人が通信販売や訪問販売で高額な商品を購入してしまったり、本人名義で所有している不動産など衣食住に関わる重要な資産の取引を行ってしまうなどです。
こうしたトラブルを防止するために、成年後見制度が用意されています。
2.法定後見
成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。
このうち、法定後見制度には、制度の対象となる本人の判断能力によって、「成年後見」「保佐」「補助」の3種類に分けられます。
2-1.成年後見
(後見開始の審判)
第七条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。
(成年被後見人及び成年後見人)
第八条 後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年後見人を付する。
上記の「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」のイメージとしては、重度の認知症や精神障がいによって、自分の財産の管理はおろか、日常生活すらままならないような状態になってしまったようなケースです。
この場合、本人、配偶者、4親等内の親族、検察官らの請求によって、家庭裁判所が後見開始の審判を行い、「成年後見人」を選任することで、後見が開始されます。
一方で、この制度によって支援を受けることになった人のことを「成年被後見人」と呼びます。
「成年後見人」は、未成年者や破産者などはなれませんが(民法847条)、家庭裁判所に適任者として判断されれば、親族以外の者も選任されることができます。
2-2-1.権限について
家庭裁判所によって選任された成年後見人は、被後見人の生活を守るため、取消権(民法9条)と代理権(民法859条1項)が付与されます。
成年被後見人がした行為は、日用品の購入など日常生活に必要な行為を除き、取り消すことができます。
また、不動産、預貯金、貴金属などの財産管理、および病気やケガによる治療や入院、介護施設の入所といった身上保護を行う必要があるため、さまざまな契約や法律行為を被後見人に代わって代理することができます。
一方で、成年後見人には同意権はありません。成年被後見人は判断能力を欠く状態とされているので、その行為に成年後見人が同意しても、法的効力はないとされるからです。
2-2.保佐
(保佐開始の審判)
第十一条 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判をすることができる。ただし、第七条に規定する原因がある者については、この限りでない。(被保佐人及び保佐人)
第十二条 保佐開始の審判を受けた者は、被保佐人とし、これに保佐人を付する。
日常生活はある程度自分だけで送ることができるものの、自己の財産に関係するような重要な契約については、常にサポートを必要とする状態といえます。
成年後見と同様、本人、配偶者、4親等内の親族、検察官らの請求によって、家庭裁判所が保佐開始の審判を行い、「保佐人」を選任することで、保佐が開始されます。保佐を受ける人のことは、「被保佐人」と呼びます。
2-2-1.権限について
先述のとおり、被保佐人は日常生活についてはある程度問題なく送れますが、自己の財産にかかわる重要な契約については、常にサポートをしなければいけない状態であるといえます。そのため、保佐人には同意権および取消権が付与されています。
被保佐人が、不動産その他の重要な財産取引や、相続の承認もしくは放棄または遺産分割、借財または保証をするなどの行為をする場合に、保佐人の同意を得なければいけないこととなっています。同意を得なければいけない行為については、保佐人若しくは保佐監督人の請求により、家庭裁判所の審判を経て、増やすことができます(民法13条1項各号、同条2項)。
保佐人の同意を得ずに行った上記の行為については、取り消すことができます(同条4項)。
なお、保佐人になっただけでは、代理権はありません。
家庭裁判所での審判を経た上で、特定の法律行為についてのみ、保佐人に代理権を付与することができます。また、本人である被保佐人以外の請求で保佐人に代理権を付与したい場合、被保佐人である本人の同意が必要です。
2-3.補助
(補助開始の審判)
第十五条 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。ただし、第七条又は第十一条本文に規定する原因がある者については、この限りでない。
2 本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない。
3 補助開始の審判は、第十七条第一項の審判又は第八百七十六条の九第一項の審判とともにしなければならない。
(被補助人及び補助人)
第十六条 補助開始の審判を受けた者は、被補助人とし、これに補助人を付する。
日常生活はほぼ問題なく1人で送ることができ、判断能力の低下も軽度であるため、契約や法律行為については保佐より範囲を限定してサポートをした方がいい状態であるケースです。
本人以外の者の請求による場合、補助開始の審判には本人の同意が必要となる点に違いがあります。
2-3-1.権限について
補助の場合、後見・保佐よりも判断能力の低下は軽度であるとされるため、本人の意思決定が尊重されます。
そのため、補助人に選任されただけでは、何の権限も与えられません。
補助人が同意権・代理権を得るためには、補助開始の審判の申立てを行う際、本人の同意を得た上で、同時に「同意権付与の申立て」もしくは「代理権付与の申立て」を行う必要があります(民法17条1項・879条)。
申立てによって同意権が与えられた場合のみ、取消権も付与されます
3.ご家族で相談し、早めの備えを
親や親族の判断能力が低下してきた場合、上記のような法定後見制度によって、本人の財産を守ることができます。
ご家族に対する想いが強い方ほど、こうした不安や悩みをひとりで抱えて込んでしまいがちです。「大切な家族の資産を守り、今後のことをしっかり考えていきたい」という想いがございましたら、行政書士をはじめとした法律の専門家に早めにご相談ください。
お客様の立場に立って、どのような手段が適切かを一緒に考えさせていただきます。
また、将来に備えてあらかじめ後見契約を締結することもできます(任意後見制度)。些細なことでもかまいませんので、疑問点やご質問などございましたら、まずは一度当事務所までお問い合わせください。